2019年8月1日に開幕した「あいちトリエンナーレ2019」のなかの企画展の一つ、「表現の不自由展・その後」の展示が開幕からわずか3日で一時中止に追いこまれた。これは、展示作品の一つである「平和の少女像」などに対して、河村たかし名古屋市長が「日本人の、国民の心を踏みにじるもの」だから撤去すべきだと発言して、大村秀章愛知県知事に中止を申し入れたことに端を発する。その後、松井一郎大阪市長の「慰安婦の問題というのは完全なデマ」「デマの象徴の慰安婦像を行政が主催する展示会で展示するべきものではない」といった発言や、「あいちトリエンナーレ2019」に対する文化庁の補助金交付決定について「事実関係を確認、精査した上で適切に対応したい」との菅義偉内閣官房長官の発言が続いた。これに同調したメール・電話・FAX等による抗議の殺到と脅迫とにより、展示は一時中止になったのである。その後、9月26日になって、文化庁は、「文化芸術創造拠点形成事業」の一環である「2019年度『日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業文化資源活用推進事業』」として採択されていた「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金7829万円の「不交付」を決定した。
「表現の不自由展・その後」を一時中止に追いこむ契機となった河村名古屋市長の発言は、日本国憲法第21条第1項に規定された表現の自由を侵害する行為に他ならない。一方、「あいちトリエンナーレ2019」への補助金不交付の理由として、文化庁は本件について愛知県に「不適当」行為があったことを挙げた。つまり、「補助金申請者である愛知県は、展覧会の開催に当たり、来場者を含め展示会場の安全や、事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した」のだという。しかし、これは明らかに事後的にこじつけたものでしかなく、結果的に文化庁は、表現の自由の侵害行為に荷担することになってしまったのである。
本来、行政機関は、今回の「表現の不自由展・その後」に加えられた攻撃に対し、展覧会施設や関係者の安全保護を徹底し、一方で、憲法上の権利である表現の自由を尊重する姿勢を毅然と示すべきであった。もし、今回の補助金「不交付」決定のような、すでに決定された補助金の支給決定の取消を許すようなことがあれば、それが前例となって、今後も、行政機関や公的助成機関が、脅迫や抗議を理由に、学術・教育等の活動に対する補助金支給決定をいくらでも取り消し得ることになる。このことは、近年、特に社会科学分野において、科学研究費補助金の交付を受けた研究の内容について、政治家等が「国の補助金にふさわしくない」などと干渉・介入する動きが出ていることとも軌を一にしている。その時々の政権担当者の意に添わない事業や研究への支援・助成に圧力をかけようとするものに他ならない。今回の「あいちトリエンナーレ2019」に関連して起った一連の出来事は、日本国憲法第23条の学問・研究の自由を擁護する立場からも、看過できない深刻な問題を含んでいるのである。
さらに問題となるのは、「公共的な事業」「公共の場」では表現の自由は制限されても仕方がないという趣旨の発言を、河村名古屋市長が行っていることである。これに対して大村愛知県知事が的確に反論しているように、むしろ公共の場においてこそ表現の自由は保障されるべきである。このように公共性が誤用して理解されている状況において、文部科学省・文化庁はその誤りをただし国民を啓発する役割を担うべきであろう。
我が国の歴史学系学協会の連合組織である日本歴史学協会は、表現の自由、学問・研究の自由がないがしろにされ侵害されている現状を深く憂い、賛同する学協会と共同で本声明を出すことにした。まずは、「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金不交付決定を取り消すように、文部科学大臣および文化庁長官に強く要望するものである。
2020年1月25日
日本歴史学協会
岩手史学会
京都民科歴史部会
交通史学会
ジェンダー史学会
総合女性史学会
千葉歴史学会
朝鮮史研究会幹事会
東京歴史科学研究会
奈良歴史研究会
日本史研究会
別府大学史学研究会
歴史学研究会
歴史科学協議会
歴史教育者協議会
「あいちトリエンナーレ 2019」への補助金「不交付」決定に対する要望書(PDF)
資料保全活動に関わるボランティア登録のお願い
歴史資料ネットワークでは、大規模自然災害によって被災した資料保全活動のボランティア登録を募集しています。
東日本大震災の被災地では、市民や歴史研究者、博物館・図書館・文書館・史資料館関係者など多くのボランティアが参加し、現在にまで多くの被災資料が救出されています。しかし津波被災資料に関しては、いまだクリーニング作業が必要な状態です。家屋や蔵の解体が進む内陸部では、今後も緊急的な保全活動が必要です。また、東日本大震災被災地以外でも、大規模な地震災害や風水害がいつ発生してもおかしくない状況にあります。
このため歴史資料ネットワークは、災害時や日常時の資料保全活動に関わる情報を迅速に伝えるため、「登録ボランティア」制度を実施しています。「登録ボランティア」制度は、東日本大震災の被災地をはじめ、各地における資料保全活動の情報をメーリングリストによって随時届けるもので、登録は無料です。
なお、実際にボランティア活動へ参加する場合には、直接現地の活動団体への申し込み、ボランティア保険への加入が必要です。
メーリングリストへの登録は以下の必要事項を記入の上、史料ネット事務局までお送りください。
【必要事項】名前/住所/電話番号/メールアドレス/生年月日
【歴史資料ネットワーク事務局】
〒六五七―八五〇一 神戸市灘区六甲台町一―一 神戸大学文学部内
電話:〇七八―八〇三―五五六五 メール:s-net@lit.kobe-u.ac.jp
*日本史研究会は歴史資料ネットワークの構成団体であり、委員を派遣しています。上の文章は歴史資料ネットワークの要望を受けて掲載したものです。
特定秘密保護法案に対する歴史学関係者の緊急声明
去る10月25日、政府は、特定秘密保護法案(以下、「法案」という。)を閣議決定した。
このたび閣議決定された法案には下記のように多くの問題点が含まれており、十分な審議を尽くすことなく、今回の法案の採択を急ぐことには、歴史学の研究と教育に携わるものとして、重大な危倶の念を表明せざるを得ない。
1.「特定秘密」に指定された文書が、各機関での保管期限満了後に国立公文書館などに移管されて公開されることが担保されておらず、歴史の真実を探求する歴史学研究が妨げられる恐れが強いこと。
2.「特定秘密」の指定が行政機関の長のみの判断で可能であり、また一度特定秘密指定をされれば、指定が解除されない限りその妥当性は誰も監視できないため、恣意的に濫用される可能性が高いこと(第3条)。
3.歴史学研究者の史料調査において、「特定秘密文書」を史料として入手した際に、「特定秘密を保有する者の管理を害する行為」とされ、刑事処罰の対象にされる恐れがあること(第23,24条)。
4.知る権利に関連し「報道または取材の自由」への配慮が記されたとはいえ、「学問の自由」を含む全ての人々の基本的人権の不当な侵害への配慮がされているわけではないこと(第21条)。
2011年に施行された公文書管理法によって、行政文書や特定歴史公文書等の取扱いのルールが明確にされたにもかかわらず、今回の法案は各行政機関の長が恣意的に「特定秘密」の指定を行えるなど、公文書管理法の基本的な精神に反するものになっている。この法案が成立すれば、歴史的に重要な文書が行政機関によって恣意的に選別される可能性が高く、歴史学の研究と教育に多大の障害をもたらすことが懸念される。よって、特定秘密保護法が制定されることに対し、我々は強く反対する。
2013年10月30日
歴史学研究会委員長 久保亨
日本史研究会代表委員 藤井譲治
歴史科学協議会代表理事 糟谷憲一
歴史科学協議会代表理事 塚田孝
歴史教育者協議会代表理事 山田朗
同時代史学会代表 吉田裕
東京歴史科学研究会代表 中嶋久人
日本の戦争責任資料センター共同代表 荒井信一
国立歴史民俗博物館・前館長 宮地正人
〔付記〕
日本史研究会は、「特定秘密保護法案に対する歴史学関係者の緊急声明案」について、総合委員会での議論・決定を経た上で委員長名で賛同を表明します。
【被災資料保全活動への支援募金のお願い】
東日本各地では大震災で被災した文化財・歴史資料を救出・保全する様々な取り組みが行われていますが、その活動に必要な資金が不足しています。
歴史資料ネットワーク(史料ネット)からの要請はすでに告知しておりますが、その他諸団体の情報を追加しました。「諸情報」欄でご確認下さい。
日本史研究会について
日本史研究会の事務所・連絡先
〒602-8026
京都市上京区新町通丸太町上る春帯町350 機関紙会館2階
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各部会の連絡先
各部会に関するお問い合わせは、下記までお願いします。
古代史部会 ancient【a】nihonshiken.jp
中世史部会 medieval【a】nihonshiken.jp
近世史部会 earlymodern【a】nihonshiken.jp
近現代史部会 kingendai.nihonshiken【a】gmail.com
【a】は@に置き換えてください。
- 歴史学のもつ社会的意義を主体的に意識しながら、近代歴史学の到達点と今後の課題を多面的に検証する。
- 多様な歴史資料を活用した豊かな歴史像を構築するとともに、歴史学の理論や方法について関連諸科学にも学びつつ総合的に検討する。
- 多様な社会や地域の存在に関心を払い、世界史的視野を有する研究を目指す。この際、海外における日本史研究の現況を把握するとともに、国際交流の 機会を持つように努める。
- 歴史資料や文化財の保存・公開および民主的活用に寄与すべく努力する。
- 歴史学や歴史教育が直面する社会状況を的確に把握し、自由で民主的な研究・教育の発展に努めるとともに、会活動を会員以外にも広く知ってもらうよう努める。
第1条 本会は、日本史研究会と称し、事務所を京都市上京区新町通丸太町上る春帯町350機関紙会館2階に置く。創立は、1945年11月1日である。
第2条 本会は、日本史ならびにこれに関連する諸問題の自由且つ民主的な研究およびその普及を行なうことを目的とする。
第3条 本会は、前条の目的を達成するためにつぎの事業を行なう。
- 会誌『日本史研究』、その他の刊行物の編集発行。
- 大会(毎年1回)、例会、講演会その他の会合。
- そのほか必要な事業。
第4条 本会はその目的を達成するために必要あるときは、他の諸団体と協力するものとする。
第5条 本会の趣旨に賛同し、所定の手続きを経たものは、誰でも会員となることができる。
- 会員は、本会の行なう諸種の会合・事業に参加し、会誌に研究を寄稿することができ、会誌『日本史研究』の頒布をうける。
- 本会に入会をのぞむ者は、住所・氏名および職業を明記し、会費年8,500円(半年分納も可)をそえて、本会に申し出るものとする。
- 同一世帯を形成している夫婦、親子、兄弟姉妹などで2人以上の者が会員であることを希望している場合、連名会員として申し出ることができる。連名会員は1名につき年会費の10分の1の連名会費を納入する。また連名会員は会誌1部の頒布をうける。
- 満年齢30歳以下の会員を若手会員とし、会費を年5,000円とする。
- 満年齢65歳以上となる会員は、当該年次の会費納入に際し終身会員の資格を選択することができる。終身会員の会費は、65歳以上85,000円(会費10年分)、70歳以上51,000円(会費6年分)とする。
- 本会から退会したい者は、委員会に届け出なければならない。
第6条 本会の最高機関は総会である。
- 会員はすべて総会に出席し、自由に発言し、決議に加わる権利がある。
- 総会は、毎年秋季に委員会が招集する。
- 総会の決議は、出席者の過半数の賛同を必要とする。
- 委員会が必要と認めたとき、あるいは会員100名以上の要求があるときは、臨時総会を開かねばならない。
- 総会の開催は、少なくとも1週間以上前に会員に公示しなければならない。
第7条 本会の運営のためにつぎの役員をおく。
- 代表委員1名。代表委員は総会において会員中より選出し、本会を代表して会務を統括する。任期は1年とし、重任を妨げない。
- 委員若干名。委員は総会において会員中より選出し、全委員が合議して会務を処理する。委員は研究・編集・総務の3部にわかれて会務を分担する。任期は1年とし、重任を妨げない。
- 会計監査2名。会計監査員は総会において会員中より選出し、本会の会計を監査する。任期は1年とし、重任を妨げない。
第8条 やむをえない事情のため、第7条の役員中に異動が生じ、会務に支障のある場合には、委員会の審議によって、会員中より当該役員を補充することができる。委員会は補充した役員をすみやかに会誌に公示し、次の総会において承認をうけなければならない。
第9条 本会の経費は、会費・事業収入・寄付金そのほかの収入によってまかなう。
附 則 本会の会則の変更は、総会の決定を経なければならない。
(2020年度総会報告)2240
委員会構成の概略(2021年度委員一覧)
代表委員 |
横田冬彦 |
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研究委員 |
若松正志(委員長) |
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堀祐輔 |
村上孟謙 |
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青木貴史 |
山本康司 |
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佐藤一希 |
安永寛 |
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富山仁貴 |
濱田恭幸 |
藤井崇史 |
編集委員 |
仁木宏(委員長) |
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中町美香子 |
柳沢菜々 |
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川端泰幸 |
赤澤春彦 |
新谷和之 |
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野村玄 |
東谷智 |
東昇 |
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伊藤淳史 |
若月剛史 |
内山一幸 |
総務委員 |
櫻澤誠(委員長) |
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濱野未来 |
今村凌 |
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田中将太 |
浅井尚希 |
平田良行 |
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木多悠介 |
櫻井智 |
牧野千里 |
会計監査 |
十河和貴 |
浅野咲 |
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事務 |
黒岩美和 |
林原由美子 |
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2020年度委員
2019年度委員