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声明 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を強く非難し、近時の日本国内における動向を憂慮する

声明 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を強く非難し、近時の日本国内における動向を憂慮する published on

 二〇二二年二月二四日に開始されたロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、未だ終結の兆しがみえず更なる長期化の様相を呈している。既に民間人を含む多くの人命が失われ、攻撃による被害は教育機関や文化施設にも及んでおり、史資料の散失や文化財の破壊が現実のものとなっている。このたびの侵攻は、武力をもって他国の主権を脅かす明らかな侵略行為であり、世界の平和と秩序を乱すものである。さらに、こうした行為の正当化のために、歴史を悪用したプロパガンダが行われていることは、決して看過できるものではない。また、核兵器使用の可能性への言及や、原子力発電所への攻撃は、断じて容認することはできず、ここに強く非難する。

 一方わが国では、このような情勢に乗じて、安全保障上の危機意識を過度にあおり、防衛費の増大や敵基地攻撃能力を含む反撃能力の保有を訴え、憲法九条の改悪を目指そうとする改憲勢力の動きが活発になりつつある。七月一〇日に行われた第二六回参議院議員通常選挙では、そうした政治勢力が、非改選議席と合わせて改憲の発議に必要な参院の定数の三分の二を超える議席を獲得した。今後、改憲・武装増強に向けた動きが急速に展開していくことが懸念される。日本国憲法は、戦争による惨禍の経験と反省から、基本原理の一つに平和主義を掲げ、戦争の放棄および戦力の不保持、交戦権の否認を規定してきた。こうして戦後七〇年以上に渡り維持されてきた平和主義の原則を踏みにじるような動きが出てきていることに対し、歴史学・歴史教育に携わる者として、強い危惧を抱くものである。

 日本史研究会は、このような社会の深刻な危機に対し、歴史的経験をふまえた冷静な目を向けながら歴史学のもつ社会的な意義を主体的に意識するとともに、平和憲法を持つ国の一歴史学会として、また唯一の戦争被爆国にある一歴史学会として、ロシア軍の速やかな撤退と戦争の平和的解決を強く求めるとともに、わが国における戦争利用ともいえるような近時の動向に強い懸念を表するものである。

 

二〇二二年一〇月八日

二〇二二年度日本史研究会総会