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教科書記述に対する日本政府の政治介入を憂慮する

教科書記述に対する日本政府の政治介入を憂慮する published on

 日本政府は、2021 年の高校地理歴史科・公民科の必修科目に続き、2022 年には同選択科目の教科書検定結果の概要を公表しました。これらの教科書は、2022 年から高校に新たに適用される学習指導要領に準拠したものです。

 これらの教科書のあちこちから、よりよい教科書をつくるために執筆者や編集者が注いだ努力を読み取ることができます。とりわけいくつかの教科書では、日本の侵略戦争と植民地支配について批判的に記述し、過去を反省する姿も示されています。このような努力は、平和と人権を重視する教科書をつくろうとするすべての人々にとって、よい参考になるでしょう。しかし一方で、これらの教科書には日本政府が積極的に介入した痕跡が随所に見られてもおり、執筆者や編集者の努力に水を差しています。

 この背景には、日本政府が行った 2014 年 1 月の教科用図書検定基準と同年 4 月の教科用図書検定審査要項の改定があります。この 2 回の改定で最も重要な点は、日本政府の見解を教科書に反映させることでした。これに加えて、日本政府は 2021 年に閣議決定を通じて「従軍慰安婦」「強制連行」「連行」などの用語を使用できないようにしました。今回の教科書検定の過程で、政府はこれらの条項を根拠に、教科書の該当内容の修正を教科書発行者に事実上強要しました。その結果、ほとんどの教科書発行者が政府の見解に従って内容を修正せざるをえませんでした。

 1993 年、日本政府は自らの調査結果に基づいて河野談話を発表し、日本軍と官憲が日本軍「慰安婦」の動員や慰安所の管理に関与したという事実を認めています。それ以降、日本の歴代首相は河野談話を継承すると述べてきました。

 ところが安倍政権は、河野談話を継承するとしながらも、日本軍「慰安婦」の動員に軍と官憲が直接関与した強制連行はなかったと述べ、問題の本質を避けました。さらに昨年菅政権は、教科書から「従軍慰安婦」「強制連行」「連行」などの用語を削除させ、日本軍の関与を否定するに至っています。これは従前の政府見解を自ら否定するものにほかならず、日本や世界の学界による研究成果とも合致しないものです。朝鮮人労働者の「強制連行」「連行」を否定することも同様です。日本政府の主張は、植民地の状態そのものが強制的な状況であることを考慮しない帝国主義的な立場をいまだに放棄していないことを示すものです。このような介入は、1982 年に日本政府自らが、教科書記述において「近隣諸国」の立場を考慮すると表明した国際的な約束を破棄するものでもあります。

 日本の教科書における歴史記述、ひいては世界各国の教科書に、侵略戦争と植民地支配に対する反省が込められ、人権の大切さに気づかせる内容が盛り込まれることを願う私たち日中韓 3 国の市民は、教科書記述に対する日本政府の権力的な介入に深い憂慮を表明せざるをえません。また、そのような介入が、東アジアの平和と世界平和に深刻な脅威になっていると考えます。私たちはこのような憂慮を込めて、日本政府に対し、以下のとおり要求します。

1. 教科書に対する政治介入を直ちに中止せよ
2. 「従軍慰安婦」「強制連行」「連行」などの用語使用禁止を撤回せよ
3. 被害者の人権を大切にし、アジアと世界の平和に向けた歴史教育を支援せよ
4. 政府間の歴史対話を再開するとともに、市民社会の歴史対話を積極的に支援せよ

2022年7月12日

呼びかけ団体 子どもと教科書全国ネット21(日本)
       アジアの平和と歴史教育連帯(韓国)
  団体賛同(日本182団体、韓国8団体)
  個人賛同(日本337名、韓国213名)
      ※日本史研究会は賛同団体に加わりました。