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国家主義の台頭と思想・信条の自由侵害をもたらす「国旗損壊罪」制定に反対する

国家主義の台頭と思想・信条の自由侵害をもたらす「国旗損壊罪」制定に反対する published on

 「国旗損壊罪」制定に向けての動きが加速している。自民党総務会で法案骨子が了承されたのに続き、日本維新の会、参政党、国民民主党との調整を経て、6月16日には法案(正式名称「国旗損壊処罰法案」)が国会に提出され、今国会での成立がめざされている。同法が成立すれば、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」により、「公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損」した者には2年以下の拘禁刑、もしくは20万円以下の罰金が科されることになる。私たち日本歴史学協会は1950年の設立以来、国家主義と軍国主義の暴走がもたらした戦前の日本の痛恨の経験に学び、平和で民主的な社会建設に貢献する歴史学の発展をめざして活動してきた立場から、この動きに対し深刻な危惧を表明し、同法の制定に反対するものである。

 同法案制定の根拠として主張されてきたのは、「外国の国旗を汚したり破ったら拘禁刑を受けるかもしれないのに、日本の国旗はどう扱ってもいいのはおかしい」という論法である。だが、現行の法体系において外国国旗の損壊が禁止されているのは、もっぱらそれが外交上の問題を引き起こし、国家間の関係に影響を及ぼすという理由によるものであり、自国の国旗損壊を禁ずる法律制定の根拠とすることはできない。自国の国旗に対する敬意を強要する立法はこれとは次元を異にし、表現の自由を侵害するだけでなく、市民の内心に深く立ち入って思想および良心の自由を侵すおそれがあり、強く警戒されるべきものである。

 戦前の日本社会の経験が示すように、国旗・国歌などのシンボルは歴史的に見て、国家主義を強化し、市民に国家への忠誠心を植えつける機能を果たしてきた。「愛国心」が押しつけられる中で、それに異を唱える人びと、国家による統制に抗して個人の市民的自由や権利を守ろうとした人びとは弾圧され、また外国人や植民地支配下の人びとへの差別感情が強化された。さらに、国旗・国歌は侵略戦争や植民地支配への動員に利用され、植民地や占領地でも日の丸の掲揚が強要された。日の丸は、戦争・植民地支配・同化・排除の歴史と深く結びついてきた。

 国民主権・基本的人権の尊重・平和主義を掲げた憲法のもとで新しいスタートを切った戦後日本においても、日の丸や君が代は戦前さながらの国家主義的路線への回帰をめざす潮流のシンボルとして絶えず用いられてきた。特に「国旗国歌法」制定(1999年)以降、教育現場への強制によって、子どもや教職員の思想および良心の自由を脅かす重大な人権侵害が生じていることは看過できない。「国旗損壊」に実刑を科す今回の法案が成立すれば、教育現場の萎縮、さらには学術・思想界一般、社会全体における同調圧力の強化が一層進むことは火を見るよりも明らかである。

 国旗をあたかも神聖不可侵のものであるかのように扱い、市民の上に置いて、これを損壊する者には刑罰を科すという「国旗損壊罪」制定の動きは、国家権力による「愛国心」の押しつけであり、市民の思想・信条の自由を真っ向から否定するものである。それは人びとを国民と「非国民」に選別する差別と排除の動き、「スパイ防止法」をはじめとする戦時体制づくりへの道に直結し、戦後を通じて維持されてきた民主的社会の諸原則から私たちを逸脱させ、再び国家主義・軍国主義の只中へと導いて行くことになるだろう。

 以上の理由から、歴史に学び、歴史研究の向上発展を通じて民主的で平和な社会の建設に寄与しようと努めてきた私たちは、「国旗損壊罪」の制定に強く反対する。

 2026年6月24日

日本歴史学協会

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