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【総会声明】政府の日本学術会議会員の任命拒否、および学術会議の独立性と学問の自由への介入に強く抗議する

【総会声明】政府の日本学術会議会員の任命拒否、および学術会議の独立性と学問の自由への介入に強く抗議する published on

 10月1日、日本学術会議第25期の発足にあたり、学術会議が正式に推薦した新会員候補105名のうち6名の任命を政府が拒否したことが明らかとなった。

 加藤勝信官房長官は、同日の記者会見で、「首相の下の行政機関である学術会議において、政府側が責任を持って(人事を)行うのは当然」、「会員の人事等を通じて一定の監督権を行使することは法律上可能だ」と述べた。通常の行政機関と同じように政府が人事を行うとして任命を拒否することは、学術会議の「推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」とした日本学術会議法第7条に反するものである。

 同法は、学術会議の「職務及び権限」として、政府の個々の諮問にこたえる(第4条)だけでなく、政府の科学技術政策全般にわたって「勧告することができる」(第5条)としている。第3条でこれらの「職務」を「独立して行う」と規定しているのは、その時々の政府の政策を、より広い視野で、かつ多様な学問的・専門的立場から検討し、「勧告」を行うことが認められているからである。総理大臣が会員を退職させるには学術会議の申出によらなければならない(第26条)として、会員の身分が保証されているのも、同じ趣旨である。

 日本国憲法は、前文に「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」ことをかかげ、「思想の自由」「学問の自由」の保障を定めている。学術会議がその職務の独立性を保証され、政府の科学技術政策全般への勧告権をもつのは、科学と学術が時の政府に従属し、国民統制と戦争協力に全面的に動員させられた過去の歴史的教訓をふまえているからである。

 伝えられるところによれば、任命を拒否された6名が2015-16年の安全保障関連法や2017年の「共謀罪」法などを批判したこと、2017年に学術会議が「軍事的安全保障研究に関する声明」を出したことなどに、政府が強い不快感をもっていたとされる。2016年に政府が学術会議に補充人事の推薦を取り下げさせ、2017年には事前に定員を超える推薦予定名簿を提出させたこと、2018年には任命拒否についての内閣府見解をまとめていたことなども明らかになっている。これらをふまえれば、政府が「会員の人事を通じて」、学術会議の勧告や提言そのものに直接・間接的に「監督権を行使」しようとしていることは明らかと言わざるをえない。

 菅義偉首相は5日の会見で、任命判断の根拠を学術会議の「総合的、俯瞰的な活動」に求めているが、そうであればなおのこと、優れた研究・業績がある科学者(第17条)をさまざまな専門分野・学問的立場から広く結集させることが必要であり、政府自身が個々の人事に介入して、特定の学問的意見や立場を選別・排除することは、学術会議の独立性を侵し、広く社会的に「学問の自由」を萎縮させていくことになる。学術会議が6名の任命と、任命を拒否した具体的理由の開示を求めているのは、当然である。

 われわれ日本史研究会は、日本史学の自由で民主的な研究と普及をすすめる立場から、戦前・戦時の歴史をもふまえ、今回の任命拒否に強く抗議するとともに、学術会議の独立性と学問の自由への政府の介入に強い懸念を表明するものである。

    2020年10月10日

2020年度日本史研究会総会

歴史学関係学会ハラスメント防止宣言

歴史学関係学会ハラスメント防止宣言 published on

 一般に、ハラスメントは、性別、社会的身分、人種、国籍、信条、年齢、職業、学歴・職歴、身体的特徴など個人の人格にかかわる言動によって、あるいは力関係や優越的地位を利用して個人に不利益・不快感を与え、その尊厳を損なうすべての行為を指します。セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント、モラル・ハラスメント、アルコール・ハラスメントなど様々なハラスメントはようやく社会的に認知されるようになっています。また、近年ではソーシャルメディアの発達とともに、インターネット上での誹謗中傷も大きな社会問題になっています。ハラスメントを防止することは、個人の人格と人権を尊重することであり、その重要性は学問の世界でも例外ではありません。

 すでに数多くの大学・研究機関では、ハラスメントを防止するためのガイドラインが作成され、改善のための取り組みと、また残念ながらなお数多く発生する様々な事件への対処が行われています。しかし、学問・研究活動は大学・研究機関だけではなく、それらの組織を超えて連携・協同する学会によっても成り立っています。歴史学関係の学会も、大会・例会・シンポジウム・学会誌編集発行などの様々な組織運営活動を通じて、歴史研究者がその研究成果を発表し、互いに議論する場を提供しています。その活動は、大学・研究機関に所属しない歴史研究者によっても、あるいは教育・出版関係など広く社会一般に及ぶ様々な立場の関係者によっても担われています。ハラスメントは被害者の自由な意見表明や研究活動・組織運営活動を萎縮させます。それは民主的で自由・平等を基本とする学会活動の健全な発展を阻害するものです。

 歴史学関係学会は学問の発展のために、ハラスメント防止の取り組みに積極的に協力することが求められるでしょう。本ハラスメント防止宣言に賛同する歴史学関係学会は、歴史学の発展と歴史学関係学会に携わる関係者の人格と人権の尊重のために、各学会会員にハラスメントの防止をよびかけ、啓発活動に取り組み、ハラスメントのない自由闊達で平等な歴史研究活動の実現に努めることをここに宣言します。

2020年7月15日

日本歴史学協会       
岩手史学会         
京都民科歴史部会      
上智大学史学会       
駿台史学会         
総合女性史学会       
地方史研究協議会      
東欧史研究会        
東京歴史科学研究会     
同時代史学会        
奈良歴史研究会       
日本史研究会        
パブリックヒストリー研究会 
東アジア近代史学会     
法政大学史学会       
歴史学研究会        

公開要望書 国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲拡大による知識情報基盤の充実を求めます

公開要望書 国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲拡大による知識情報基盤の充実を求めます published on

文部科学大臣      萩生田 光一 殿

文化庁長官       宮田 亮平 殿

国立国会図書館長    吉永 元信 殿

国立研究開発法人
科学技術振興機構理事長 濱口 道成 殿

大学共同利用機関法人
情報・システム研究機構
国立情報学研究所所長  喜連川 優 殿

 

 現在、新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、国立国会図書館をはじめ、全国の大学図書館や地方自治体の図書館など、教育・研究に不可欠な日本各地の図書館が休館に追い込まれました。今後、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束に向かうとしても、なお長期にわたって図書館が本来の機能を果たすことが難しくなることが予想されます。

 図書館の休館延長・一部機能の停止、あるいは利用者の来館が困難な状況が続けば、本来図書館がもつ教育・研究に果たすべき公共的役割が著しく制約されることになります。この図書館機能に対する制約が続くと、日本の教育・研究に多大な影響を与えることになります。とくに、卒業研究に取り組む学部学生、迅速な研究成果が求められている大学院生・ポスドクなどの若手研究者にとっては由々しき事態であり、中長期的にみたときにも、個々人のそのキャリア形成のみならず、学知を支える存在の欠落を招き、将来の社会全体に与えるダメージは計り知れません。

 したがって、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぎながら、教育・研究に必要な図書館所蔵資料へのアクセスを可能とする対応が求められています。そのため、以下のように国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲の拡大を要望します。

 

1.国立国会図書館デジタルコレクションのうち、図書館送信対象資料と国立国会図書館内限定公開資料のアクセス制限を可能な限り撤廃するよう、法改正を含めた施策を早急に検討すること。なお、あわせて公共貸与権を導入するなどにより、出版社と著者の権利を適切に保障すること。

2.国立国会図書館デジタルコレクションのうち、著者の没年が不明、ないしは著作権上の権利者が不明のいわゆる「孤児著作物」について、速やかにインターネット公開をすすめること。

3.各図書館の利用者が、電子メール等を利用して図書館資料の複製物の提供を全面的にうけられるよう、権利者団体及び図書館関係者間の協議に留意しつつも、積極的かつ早急に議論を進めること。

 

 これらは、新型コロナウイルス感染症拡大に対する緊急措置としての要望であるものの、将来にわたって日本の知識情報基盤を拡充するために、必要不可欠な施策と考えます。

 もちろん制度変更を伴わずとも、学会・協会、出版社、さらには研究者個々人といった著作権者側でできることは多数あります。たとえば、公益社団法人日本図書館協会は「新型コロナウイルス感染症に係る図書館活動についての協力依頼」(2020年4月24日)を発し、著作権をもつ関係団体に公衆送信への協力を要請しています。

 このような取り組みに協力すること、さらに緊急時でなくても常に研究成果を積極的に発信するよう取り組むことは、学術研究に携わるすべての関係者に求められています。歴史学関係の学会・協会も、上記の要望に加えて研究成果のオープンアクセス化をすすめることで、学生・大学院生、さらには不安定な立場にある研究者を含むすべての研究者が研究活動を継続できるような環境整備に協力していきます。

 しかしながら、一方で、学会・協会が独自に学会誌のデジタル化をすすめるのは費用がかさみ、対応できないという現実があります。つとにJ-STAGEにより、有識者会議で選定した705誌のデジタルアーカイブズ化が行なわれたのですが、ここから漏れたり、あるいは諸般の事情でデジタル化に応じることができなかったりした学会・協会も多くあります。

 この機会に再度、範囲を拡大して過去の国内学術雑誌のデジタルアーカイブズ化を推進していただきたくお願い申し上げます。J-STAGE、国立国会図書館、CiNiiとの連携サービスにより、国内学術雑誌のほとんどすべてを利用者が電子媒体により閲覧できる体制をつくっていただきたいと深く念願するものです。

2020年5月23日

日本歴史学協会
秋田近代史研究会
岩手史学会
九州西洋史学会
京都民科歴史部会
交通史学会
国史学会
駿台史学会
総合女性史学会
地方史研究協議会
朝鮮史研究会
東海大学史学会
東京歴史科学研究会
東北史学会
名古屋歴史科学研究会
奈良歴史研究会
日本史研究会
日本風俗史学会
白山史学会
立教大学史学会
歴史科学協議会
歴史学研究会
歴史学会
歴史教育者協議会
(賛同学会、2020年6月15日更新)

公開要望書

第9回「歴史から現在を考える集い」中止のお知らせ

第9回「歴史から現在を考える集い」中止のお知らせ published on

 2020年2月29日(土)に開催を予定しておりました第9回「歴史から現在を考える集い」は、新型コロナウイルス感染症対策の観点から延期し、日程の再調整を続けてまいりました。しかし感染拡大が続く現状に鑑み、今年中の開催を中止させていただくことになりました。
 「歴史から現在を考える集い」に向けて準備をいただいていた関係者の皆様、また参加を予定しておられた皆様には申し訳ございませんが、現在の状況をご理解いただけましたら幸甚です。
 新型コロナウイルス感染症が早期に収束することを願うとともに、来年の開催に向けて準備を進めていく所存です。今後とも弊会の活動にご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

2020年7月18日
問い合わせ先 日本史研究会 075(256)9211

会員のみなさんへ

会員のみなさんへ published on

 新型コロナウィルスの影響が拡大するなかで、社会生活のさまざまな面での自粛や影響が広がっています。  日本史研究会でも、2月29日の「歴史から現在(いま)を考える集い」を当面延期としたことにはじまり、3月・4月の部会・例会を、参加者数の縮小や消毒・換気などに配慮することで何とか開けないかと試行錯誤してきましたが、3月末以降はほぼすべての研究会開催を延期・中止にせざるを得ないと判断しました。個別にそうした連絡が相次いだことで、みなさんには御心配をおかけすることになったかと思います。  3月の総合委員会は開催せず、代表委員と3委員長の4役だけで集まり、各委員とはメール会議という形をとりましたが、4月の総合委員会はオンライン会議でおこないました。また、研究・編集・総務の各委員会および本会事務所も、様々な工夫をこらして会務を継続できるよう体制を整えました。  特に会誌『日本史研究』については、毎月発行と会員への配布を滞らせることのないよう、編集委員会はこれまで通りのペースで論文審査や編集実務を維持できるよう最大限の努力をしています。  また、今秋の大会についても、大会準備のための部会開催や運営委員会の学習会などに影響が出ていますが、予定通りの大会開催にむけて準備を進めていきます。しかし、今後の事態の進み方によっては、より厳しい対応が必要になるかもしれません。  大会・部会の持ち方や会運営には、いろいろな知恵や工夫が求められます。会員のみなさんの御意見、御理解と御協力をお願いいたします。

2020年4月18日 日本史研究会 総合委員会

第9回「歴史から現在を考える集い」(2/29)延期のお知らせ

第9回「歴史から現在を考える集い」(2/29)延期のお知らせ published on

第9回「歴史から現在を考える集い」(2/29)延期のお知らせ

2月29日(土)に開催を予定しておりました第9回「歴史から現在を考える集い」ですが、新型コロナウイルス感染症対策の観点から、延期することといたしました。新たな日時・場所につきましては、改めて当会ホームページおよびツイッターなどでご案内させていただきます。何卒ご了承いただければ幸いです。

「あいちトリエンナーレ2019」への補助金「不交付」決定に対する要望書

「あいちトリエンナーレ2019」への補助金「不交付」決定に対する要望書 published on

 2019年8月1日に開幕した「あいちトリエンナーレ2019」のなかの企画展の一つ、「表現の不自由展・その後」の展示が開幕からわずか3日で一時中止に追いこまれた。これは、展示作品の一つである「平和の少女像」などに対して、河村たかし名古屋市長が「日本人の、国民の心を踏みにじるもの」だから撤去すべきだと発言して、大村秀章愛知県知事に中止を申し入れたことに端を発する。その後、松井一郎大阪市長の「慰安婦の問題というのは完全なデマ」「デマの象徴の慰安婦像を行政が主催する展示会で展示するべきものではない」といった発言や、「あいちトリエンナーレ2019」に対する文化庁の補助金交付決定について「事実関係を確認、精査した上で適切に対応したい」との菅義偉内閣官房長官の発言が続いた。これに同調したメール・電話・FAX等による抗議の殺到と脅迫とにより、展示は一時中止になったのである。その後、9月26日になって、文化庁は、「文化芸術創造拠点形成事業」の一環である「2019年度『日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業文化資源活用推進事業』」として採択されていた「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金7829万円の「不交付」を決定した。

 「表現の不自由展・その後」を一時中止に追いこむ契機となった河村名古屋市長の発言は、日本国憲法第21条第1項に規定された表現の自由を侵害する行為に他ならない。一方、「あいちトリエンナーレ2019」への補助金不交付の理由として、文化庁は本件について愛知県に「不適当」行為があったことを挙げた。つまり、「補助金申請者である愛知県は、展覧会の開催に当たり、来場者を含め展示会場の安全や、事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した」のだという。しかし、これは明らかに事後的にこじつけたものでしかなく、結果的に文化庁は、表現の自由の侵害行為に荷担することになってしまったのである。

 本来、行政機関は、今回の「表現の不自由展・その後」に加えられた攻撃に対し、展覧会施設や関係者の安全保護を徹底し、一方で、憲法上の権利である表現の自由を尊重する姿勢を毅然と示すべきであった。もし、今回の補助金「不交付」決定のような、すでに決定された補助金の支給決定の取消を許すようなことがあれば、それが前例となって、今後も、行政機関や公的助成機関が、脅迫や抗議を理由に、学術・教育等の活動に対する補助金支給決定をいくらでも取り消し得ることになる。このことは、近年、特に社会科学分野において、科学研究費補助金の交付を受けた研究の内容について、政治家等が「国の補助金にふさわしくない」などと干渉・介入する動きが出ていることとも軌を一にしている。その時々の政権担当者の意に添わない事業や研究への支援・助成に圧力をかけようとするものに他ならない。今回の「あいちトリエンナーレ2019」に関連して起った一連の出来事は、日本国憲法第23条の学問・研究の自由を擁護する立場からも、看過できない深刻な問題を含んでいるのである。

 さらに問題となるのは、「公共的な事業」「公共の場」では表現の自由は制限されても仕方がないという趣旨の発言を、河村名古屋市長が行っていることである。これに対して大村愛知県知事が的確に反論しているように、むしろ公共の場においてこそ表現の自由は保障されるべきである。このように公共性が誤用して理解されている状況において、文部科学省・文化庁はその誤りをただし国民を啓発する役割を担うべきであろう。

 我が国の歴史学系学協会の連合組織である日本歴史学協会は、表現の自由、学問・研究の自由がないがしろにされ侵害されている現状を深く憂い、賛同する学協会と共同で本声明を出すことにした。まずは、「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金不交付決定を取り消すように、文部科学大臣および文化庁長官に強く要望するものである。

2020年1月25日

日本歴史学協会   
岩手史学会     
京都民科歴史部会  
交通史学会     
ジェンダー史学会  
総合女性史学会   
千葉歴史学会    
朝鮮史研究会幹事会 
東京歴史科学研究会 
奈良歴史研究会   
日本史研究会    
別府大学史学研究会 
歴史学研究会    
歴史科学協議会   
歴史教育者協議会  

「あいちトリエンナーレ 2019」への補助金「不交付」決定に対する要望書(PDF)

第9回「歴史から現在を考える集い」

第9回「歴史から現在を考える集い」 published on

第9回「歴史から現在(いま)を考える集い」
「「選別」の根源―社会的有用性というまなざし―」

〇講演 高野信治 氏(九州大学)
     「障害認識を遡る」
    藤井渉 氏(花園大学)
     「戦力ならざる者の戦争と福祉」

 二〇一六年に発生した相模原障害者施設殺傷事件は、障害者に対する差別や偏見によって引き起こされたとされています。また、重度の障害を持つ国会議員が「特別扱いされている」という声も聞こえてきます。このような差別や偏見が、現在の日本において確かに存在しているように思います。こういった考え方に対して、その起源を探るという試みは、「歴史」を考えることが現在の社会に対する認識を深めるひとつの手段となるのではないでしょうか。
 そこで、第九回「歴史から現在を考える集い」では、近世日本を中心に障害の有無による人間の区別・差別といった問題を研究しておられる高野信治氏と、社会福祉学の観点から、障害者福祉の制度を歴史的に研究しておられる藤井渉氏をお招きします。おふたりのご講演を通して、障害者に対する差別や偏見が発生する原因を歴史的に捉え直し、上記の問題を考える場にしていきたいと思います。

日 時 2月29日(土)14:00〜17:30(受付開始13:30)延期になりました
会 場 平安女学院大学 京都キャンパス 室町館4階 412教室
     (地下鉄烏丸線丸太町駅下車、徒歩5分)
     会場整理費500円。事前申込不要。一般来聴歓迎。
  

      お問い合わせ 日本史研究会 075-(256)-9211

 

表現・言論・学問の自由を擁護し、歴史修正主義・排外主義に反対する大会アピール

表現・言論・学問の自由を擁護し、歴史修正主義・排外主義に反対する大会アピール published on

 本年8月1日に開幕した「あいちトリエンナーレ2019」(主催・あいちトリエンナーレ実行委員会)のなかでの「表現の不自由展・その後」が、直後の8月3日に中止されるという事件があった。これは、展示作品「平和の少女像」について、名古屋市の河村たかし市長が批判したことなどに端を発し、主催者に展覧会へのテロを示唆する脅迫的行為が相次いだことを直接の原因としている。その後、「あいちトリエンナーレ2019」をめぐってはさまざまな議論が巻き起こったが、9月26日に至り、文化庁は、「あいちトリエンナーレ」に対する文化資源活用事業費補助金を全額不交付とするとの決定を行った。
 「表現の不自由展・その後」は、2015年に東京のギャラリーで開催された「表現の不自由展」を引き継ぐものであるが、「日本における「言論と表現の自由」が脅かされているのではないかという強い危機意識」を開催意図としたものである(「あいちトリエンナーレ2019」公式サイトより)。その危惧が現実のものとなったといえる。
 政治家や自治体首長の発言を契機とする脅迫によって芸術展が中止に追い込まれたのみならず、国家の公的機関による補助金が、事後に不交付決定されるという事態に、われわれも大きな危機感を共有するものである。
 このたびの事態は、数々の憂慮すべき問題を提起しているが、歴史の学術研究・教育に携わるわれわれが特に強く危惧を抱くのは、次の諸点である。
 まず言論・表現の自由は、社会の民主的発展に不可欠なものであるが、それを尊重しない政治家・自治体首長の発言が相次ぎ、また社会の中にそれを強く支持する勢力がかなり増大していることである。
 今回の展示中止事件をもたらすきっかけになった「平和の少女像」は、もともと日本軍による「慰安婦」問題・戦時性暴力を批判する韓国の世論と密接に関わり、政治的な役割も果たしてきた作品である。そのため排外主義的な思想を有する政治家・自治体首長の攻撃の的となってきた。それは、近年における歴史修正主義と軌を一にするものである。かつての侵略戦争・植民地支配を反省し、近隣諸国との友好関係を築き上げてきた日本にとって、こうした動向は、夜郎自大な自民族中心主義を育て上げることにしかつながらない。2014年に刊行した『「慰安婦」問題を/から考える―軍事性暴力と日常世界』(本会・歴史学研究会共編)や科学運動での取り組みなどにおいて本会は、侵略戦争を美化し「慰安婦」を捏造などとする歴史修正主義の動きを再三、批判してきた。このたびの事件の背景にある歴史修正主義的・排外主義的思考についても、改めて強く批判されるべきと考える。
 そして今回の事件で顕著となったのは、芸術展への攻撃方法として、政治家や自治体首長が補助金など公的資金の交付や公的施設を会場とすることをあげつらい、その発言が匿名による大量の脅迫的言論を誘発したということである。いわば、問題の本質をそらして自身の正当性・中立性を偽装しつつ、攻撃対象となった作家や関係者による反論や開かれた議論を封殺していくやり口をとったといえよう。文化庁による補助金不交付の決定は、これらの「攻撃」「脅迫」に権威的なお墨付きを与えたという点からも、社会に対する計り知れない打撃を与えるものと憂慮を表明せざるを得ない。
 なお、あいちトリエンナーレ実行委員会の会長でもある大村秀章愛知県知事が、河村名古屋市長の発言を日本国憲法第21条に違反するものであるとした上で、「公権力を持ったところであるからこそ、表現の自由は保障されなければならない」と強く批判したことは、至極まっとうな意見であり、事件の渦中にありながら勇気ある発言をされたことを評価したい。
 このたびの「あいちトリエンナーレ2019」をめぐる事件のみならず、現在、表現・言論・学問の自由を脅かす事態が次々に生起している。歴史教科書や日の丸・君が代をめぐる問題は言うに及ばず、天皇制や侵略戦争、差別への批判は、マスコミにおいてほぼ封殺され、インターネット・コミュニティにおいてはヘイト・スピーチが溢れかえっている現状である。科学研究費補助金の対象となっている研究課題や公立博物館における展示、大学入試の問題にまで、「反日」のレッテルを貼って執拗な攻撃を加えるさまざまな事態が起こっている。それは自由な言論と学術研究を萎縮させ、学問の発展を決定的に阻害するものであり、社会にとって害悪をなすものである。
 学術研究・教育の健全な発展には、表現・言論・学問の自由が重要であることは、論を俟たない。戦前の抑圧から解放されることで発展してきた戦後の歴史学研究にとって、それは原体験のごときものである。表現・言論・学問の自由を擁護することは、健全な民主主義を育て、善隣友好・世界平和を希求する国民の負託に応えるものでもある。
 戦後70年が過ぎ、また本年の天皇の「代替わり」を経て、われわれは、改めて歴史の学術研究の成果を無視し、隣国への差別意識を助長する歴史修正主義及び排外主義に反対するとともに、昨今の事態に深い憂慮を表明し、表現・言論・学問の自由の重要性を強く社会に訴えるものである。

2019年度日本史研究会大会10月13日

即位の礼・大嘗祭に反対し、天皇の政治利用を批判する(共同声明)

即位の礼・大嘗祭に反対し、天皇の政治利用を批判する(共同声明) published on

 本年4月30日に明仁天皇が退位し、5月1日に徳仁天皇が皇位を継承した。政府は、これに続き、10月下旬から11月上旬にかけて「即位の礼」に関わる残りの儀式・行事を行い、さらに11月14・15日に大嘗祭を挙行しようとしている。
 先の昭和天皇から明仁天皇への「代替わり」にともなう一連の儀式・行事について、われわれは、日本国憲法における国民主権原理や政教分離原則への違反、戦前の天皇主権体制への回帰・天皇制の美化などといった問題点を指摘し、反対の意思を表明してきた。
 今回、政府は、国事行為と皇室の儀式・行事とを分離することで、一定の配慮を示している。しかし、5月1日に国事行為として行われた「剣璽等承継の儀」は、日本神話に根拠を置くレガリアの継承を含む儀式、10月22日に同じく国事行為として行われた「即位礼正殿の儀」は、新天皇が高御座に登壇即位する儀式であり、いずれも神話性が強く、政教分離原則と抵触する疑いが濃厚である。また大嘗祭および関連の儀式・行事については、神道形式で行う宮中祭祀であるにもかかわらず、公費である宮廷費が支出されており、明確に政教分離原則に違反するものである。さらに5月1日の「即位後朝見の儀」と10月22日の「即位礼正殿の儀」では、壇上の天皇に対し首相が壇下から言葉を発しており、日本国憲法の国民主権原理にそぐわない。
 かつ、これら諸儀式・行事には、強固なイデオロギーが存在する。これら諸儀式・行事は、古代以来の前近代において伝統的に用いられてきた中国的なあり方を払拭し、実際には伝統に基づかない明治以降の歴史の浅い儀式を、あたかも古代以来の伝統的儀式であるかのように装ったものである。そしてこのような偽装によって天皇制の古さ・伝統性を強調し、日本国における天皇制存続の正当性を宣布しようとするものであることは明らかである。戦後の学術的歴史研究は、天皇制の神話性、万世一系の天皇の地位を否定し、時代に応じた王権の機能・天皇権威の歴史性、さらにアジア太平洋戦争において天皇制が果たした役割を解明することを通じて、日本国憲法下における天皇制のあり方を問い続けてきた。
 平成の「代替わり」に続いて、ほぼ同じ内容で「代替わり」の諸儀式・行事を挙行し、天皇制の永続をはかろうとすることは、こうした歴史研究の成果を全く無視するものである。少なくとも「代替わり」の諸儀式・行事は、政教分離原則を徹底し、国民主権原理に即した形で行われるべきであり、このたびの「即位の礼」「大嘗祭」の挙行には強く反対の意思を表明したい。
 それとともに、今回の「代替わり」が、明仁天皇の退位にともなうものであるため、政府は、マスコミ・経済界などを動員して、「祝賀」ムードへの同調を強制している。たとえば、内閣府をはじめとする政府機関を後援者として、11月9日には「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」と称するイベントが開催される。自治体レベルにおいても、「祝賀」の記帳やさまざまな「奉祝」行事が行われている。これらは、国民を天皇の賛美に動員すると同時に、現代日本の政治や社会の矛盾を覆い隠そうと意図している。それは、日本国憲法の規定による天皇の政治的位置や役割をはるかに超えた天皇の政治利用に他ならない。
 われわれ歴史研究者・教育者からなる四学会は、戦争における加害・植民地支配の責任問題の追究、歴史教科書問題への取り組み、陵墓公開運動などの科学運動を通して、歴史のなかにおける天皇制の果たした負の側面を明らかにし、天皇の政治利用に反対してきた。今回の「代替わり」においても、天皇の政治利用への批判の態度を明確にし、反対する強い意思を表明するものである。

2019年11月7日

日本史研究会
歴史科学協議会
歴史学研究会
歴史教育者協議会