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第32回平和のための京都の戦争展

第32回平和のための京都の戦争展 published on

「第32回平和のための京都の戦争展」ミニシンポ

―日本の戦争・植民地責任は果たされたか―

 

日時 2012年8月4日(土)13:00~15:00
場所 立命館大学国際平和ミュージアム 
題目 戦後補償運動の展開―在韓被爆者支援運動を中心に―

講師 本庄 十喜氏(ほんじょう とき、関東学院大学)
主催 日本史研究会

*日本史研究会WGによるサブ報告も予定しています。
*入場無料。一般来聴歓迎。予約不要。お問い合わせは、日本史研究会075(256)9211

 

企画趣旨
日本の戦争・植民地責任に向き合うことは、現在の日本がアジアのなかで関係を築いていく上で欠かせない作業です。しかし今年に入って河村名古屋市長により「南京虐殺はなかった」発言がなされるなど、それらを否定しようという動きも根強いものがあります。公人のこのような発言を「許す」背景には、日本社会のなかで十分に戦争・植民地責任の理解が進んでいないことがあるように思われます。本企画では、戦後の日本社会のなかで、戦争・植民地責任がどのように扱われてきたか、戦後補償問題を軸に改めて考えていきたいと思います。
一方大阪では、大阪国際平和センター(ピースおおさか)の縮小・廃止や、新たな近現代史施設の設立が検討されるなど、過去の戦争を学ぶ社会的環境も大きく変わりつつあります。戦争・植民地責任をめぐる歴史学習・教育のあり方についても、併せて皆さんと交流できる場にしたいと考えています。

 

講師の主な研究
・「戦後補償運動の展開とその諸相」(『人民の歴史学』182、2009年)
・「通史叙述にみる近代日本の戦争と軍隊」(『歴史評論』735、20011年)など

大阪人権博物館・大阪国際平和センターの補助金削減・廃止に反対する声明

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大阪人権博物館・大阪国際平和センターの補助金削減・廃止に反対する声明

先日、橋下徹大阪市長と松井一郎大阪府知事は、大阪人権博物館(リバティおおさか)を見学し、展示内容への不満足から補助金を打ち切ることを表明した。また、大阪国際平和センター(ピースおおさか)については、二〇一一年に橋下府知事(当時)がその展示内容を問題とし、現在は大阪府市統合本部の特別顧問のもとで補助金支出の見直しが俎上に載せられている。しかしながら、両施設がこれまでに果たしてきた社会的役割は極めて大きく、私たちは大阪府・市の方針に賛成することはできない。

リバティおおさかは、さまざまな人権問題に関する歴史的調査研究、関係資料の収集・公開による人権意識の啓発を目的とした施設である。大阪という地域に根ざした問題を掘り下げる一方、近年では沖縄問題、性差別など様々な人権問題についても幅広く発信している。
またピースおおさかは、次代を担う世代に戦争の悲惨さと平和の尊さを伝えるために設立され、精力的な資料の収集により現在収蔵品総点数は四万点を超えている。これをもとに、大阪の空襲被害をテーマとした展示や、平和を祈念する企画事業などを行うことで、大阪府民・市民は勿論、中国や韓国など東アジアの人びとからも大きな共感を得、支えられてきた。

両施設とも、以上のような趣旨・目的に則って、資料を収集・保存し、その成果を展示や刊行物に結実させるとともに、地元学校や社会教育との連携など地域に根ざした活動や、普遍的な設立理念の共有のために国際交流を積み重ねてきた。人権の尊重と平和の実現を目指した両施設における研究・普及活動や国際交流の蓄積は、大阪のみならず、日本そして世界からも高く評価され支持されてきたものである。こうした積み重ねは今後、大阪府民・市民が東アジアの人びとと交流を深めていく上での信頼や相互理解の基盤となることは間違いない。
両施設がこれまで果たしてきた社会的・公的役割に鑑みれば、府知事や市長の個人的な価値判断によって事業の縮小が決定されることには、到底賛同できない。

その一方で、本年五月二九日の第一二回大阪府市統合本部会議において、「近現代史の教育のための施設」の設立方針が決定されている。提案者の橋下市長によれば、同施設は次世代を担う子どもたちが、国際社会における日本の位置を理解できるように日本の近現代史を学ぶ教育施設であり、その展示内容は、対立する歴史的見解を「両論併記」したものにするという。
私たちは、一方で既に十分な実績を有するリバティ・ピース両館の事業縮小・廃止を検討しながら、他方で府知事と市長の価値基準を軸とした新たな近現代史教育施設の設立計画が進められていることに、強い懸念を抱いている。

以上の理由から、私たちは大阪府・市に、次の点を要望する。

  • 一、大阪人権博物館(リバティおおさか)および大阪国際平和センター(ピースおおさか)への補助金打ち切り等の方針を撤回すること。
  • 一、大阪人権博物館および大阪国際平和センターのこれまでの取り組みを尊重し、今後も事業の継続・拡充に努めること。

 

上記、声明する。

二〇一二年六月二六日

日本史研究会
歴史学研究会
歴史科学協議会
歴史教育者協議会

2012年度歴史学入門講座

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2012年度 歴史学入門講座(曜日訂正・論題追加)

テーマ 「寺院と転換期の京(みやこ)」

講師:

堀 裕氏(東北大学)
 

「9世紀日本と仏教」

 

下坂 守氏(奈良大学)

 

「坂本の馬借と正長・嘉吉の土一揆ー山訴がもたらす都市の騒擾ー」

日時:

2012年7月8日(日) 13時~17時

(前回のお知らせで土曜日としていましたが、8日(日)が正しいです)

場所: 機関紙会館5階大会議室
 

京都市上京区新町通丸太町上ル東側

地下鉄丸太町駅下車2番出口より西へ徒歩5分

市バス府庁前下車すぐ

参加費: 500円(当日のみ、前売りなし)

歴史学入門講座公開勉強会

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歴史学入門講座公開勉強会

勉強会1

日時: 6月8日(金)、18:00~20:00
場所: 立命館大学衣笠キャンパス構内、学而館第2研究室
(対象文献)
  堀裕氏「「化他」の時代-天長・承和期の社会政策と仏教―」(『仁明朝史の研究』思文閣出版、2011年)
  堀裕氏「平安京と寺々―平安初期の構造と歴史」(『恒久の都平安京』吉川弘文館、2010年)

 

勉強会2

 

日時: 6月15日(金)、18:00~20:00
場所: 立命館大学衣笠キャンパス構内、学而館第2研究室
(対象文献)
  下坂守氏「山門使節制度の成立と展開」(同『中世寺院社会の研究』思文閣出版、2001年)
  下坂守氏「中世寺院における大衆と「惣寺」」(同『中世寺院社会の研究』思文閣出版、2001年)

 

  • *今年度の歴史学入門講座(京都)は、7月8日(日)、機関紙会館五階大会議室で、下坂守氏・堀裕氏を講師にお招きして開催する予定です。
  • 詳細は後日改めて御案内しますが、入門講座に先立ち公開勉強会を開きます。いずれもお気軽にご参加下さい。

第一回 歴史から現在を考える集い

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第1回「歴史から現在(いま)を考える集い」

日 時 2月11日(土)午後1時30分~5時(1時開場)

会 場 登録会館2階大ホール(京都市中京区烏丸通御池上ル地下鉄烏丸御池から北へ徒歩1分)

講 演 井上 寛司氏(島根大学・大阪工業大学名誉教授)

「歴史から見た日本の神道」

本会は歴史に名を借りた祝日の国家主義的な政治利用を認めず、科学的な歴史認識を守り発展させてゆくため、「建国記念の日」不承認京都集会の実行委員会に参加してきました。その精神を継承し、歴史学の研究団体としての特性を生かした新しい集会を開催します。現代社会に対する新たな見方や問題意識を培うためには、それを規定する歴史的諸問題への考察が欠かせません。歴史研究の立場から問題を提起し考える場としていきたいと思います。

井上寛司氏を講師に迎え、柳田国男の「神道」論をどのように評価するか、「国家神道」は克服されたのかなど、歴史学の立場から神道について話して頂きます。

 

主 催 日本史研究会

後 援 「建国記念の日」不承認2・11京都府民のつどい実行委員会

参加費500円 一般来聴歓迎

問い合わせ先 日本史研究会 075(256)9211

第23回平安京・京都研究集会

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第23回平安京・京都研究集会

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2012年 1月 8日(日曜日) 13:30~17:00

「近世京都図研究の現在」

主催)平安京・京都研究集会

後援)日本史研究会  

日 時  2012年1月8日(日) 午後1時半〜5時

会 場  同志社女子大学今出川キャンパス 純正館一〇六号室(大学正門よりお入りください)

(京都市上京区今出川通寺町西入ル、地下鉄烏丸線今出川駅より東へ徒歩五分、京阪電車

出町柳駅より西へ徒歩一〇分)

報告者:伊東宗裕氏(京都市歴史資料館、日本近世史)

上杉和央氏(京都府立大学、歴史地理学)

参加自由、要資料代

お問い合わせは、平安京・京都研究集会事務局(山田)090-9697ー8052 

歴史教育シンポジウム

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日本学術会議史学委員会・日本歴史学協会主催
「歴史教育シンポジウム」
テーマ:アジアの現代史と歴史教育 
日時:2011年10月22日(土) 13:30~17:30 
会場:学習院大学北2号館10階大会議室 
次第:
開会挨拶 木村茂光(日本学術会議史学委員会) 
報告
久保 亨(信州大学)
「中国近現代史とどう向き合うかー現代中国と歴史学ー」
根本 敬(上智大学)
「東南アジア史のなかの日本占領期をどう教えるか
ー上智大学『東南アジア史入門』での実践ー」
駒田和幸(桐蔭高校)
「沖縄近代史を/に学ぶことーアジア・世界に眼を広げてー」
閉会挨拶 高埜利彦(日本歴史学協会委員長)
 

緊急アピール「育鵬社版・自由社版教科書は子どもたちに渡せない」

緊急アピール「育鵬社版・自由社版教科書は子どもたちに渡せない」 published on

  本年は中学校教科書の採択がおこなわれます。かつての「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)の流れをくむ運動は、この採択の機会を最重要視しており、育鵬社版・自由社版の二種のうち、いずれかの教科書が採択されることを目標に、日本会議をはじめとする諸団体は全国的に活動を展開しています。両社版とも既に市販本が売り出されており、この運動の成果を公衆にアピールしている一方で、これら教科書を編集した人たち自身が、他社から発行される教科書を「自虐史観」や「東京裁判史観」にもとづくものであると指弾して、繰り返し誹謗や攻撃をおこなっています。

私たちは、育鵬社版と自由社版の教科書の、いずれもが子どもたちに渡されないように、これら教科書の採択に反対するものです。

「つくる会」の手による「新しい歴史教科書」(2001年以降、扶桑社版)は、全般的に基本的な誤りや不正確な部分が多くあり、歴史研究の成果を踏まえない記述に満ちた粗悪なもので、社会的にもたいへん問題になったのは、記憶に新しいところです。非常に多くの間違いや不適切な記述が訂正されないままに、「つくる会」教科書が教育現場に導入されてしまい、このような欠陥教科書を使わされた中学生や教員等が甚大な被害を受けたことは、職能としての歴史研究を重視する諸団体にとっても、痛恨のきわみであったと言わざるを得ません。歴史研究と歴史教育とのあいだで、たいへん大きな問題を抱えこむことになってしまいました。

育鵬社版・自由社版の教科書は、実質的にこの扶桑社版の後継にあたります。2006年に、「つくる会」は内部抗争を起こして二派に分裂しました。版元の扶桑社が「つくる会」と絶縁したため、2010年度からは、版元を自由社に移して「つくる会」教科書(自由社版歴史教科書)が刊行されています。一方、分裂したグループは「日本教育再生機構」や「教科書改善の会」を結成し、こちらの方は、扶桑社の子会社として設立された育鵬社から、教科書を発行しています。運動の分裂は、結局類似した内容をもつ二種類の教科書の発行をもたらすことになりました。

扶桑社版と同様に、育鵬社版・自由社版の双方に、重大な問題点があるのを見過ごすことはできません。両社版とも本年の検定に合格しましたが、付けられた検定意見の数がきわだって多いのが注目されます。育鵬社版が150件に自由社版が237件と、歴史教科書全体での平均件数116をいずれも上回っています。さらに両社とも、誤記などの理由で多数の訂正申請を文部科学省におこなっており、さらにこの訂正以後もなお史実誤認や間違いが多く残ってしまうという有りさまです。そもそも歴史研究の成果を教科書叙述に反映する姿勢があるのかさえ、疑問です。

さらに、次のような問題点も、解消されないままに存在しています。

・全体に民衆のとらえ方が一面的な記述になっています。国家の指導者やいわゆる「偉人」の業績は特筆されていますが、文化や生活の項目以外には民衆の主体的・能動的な姿がほとんど登場しません。

・一方で、取り上げられる有名人物の数だけはこれまでに無いほど多く(育鵬社540名、自由社391名)、学習を困難にしています。この人名数をもって、両社とも学習指導要領に忠実な編集と自負していますが、果たして中学校教科書として取り上げるのに適切な分量といえるのでしょうか。偉人伝を取り上げることによる効果として、改定教育基本法を強く意識しての徳目の教えこみが目指されたもの、と評価できます。

・架空の「神武天皇」について「初代天皇」と記すなど、神話や物語と歴史との関係を誤解させやすい内容です。神話重視、「天皇」重視の記述と、縄文・弥生時代についてさえ一貫して使われている「わが国」といった表現とが相まって、国家形成や支配体制の成立といった問題がまったく不明瞭にさせられています。日本列島地域の歴史は、つねに国家と一体のものであった、という評価を教えこむことがめざされています。

・植民地支配の問題をほとんど書いていません。近隣諸国の脅威、危機感が詳述される一方で、日本による植民地化に至る事実過程は認識しがたい内容になっています。植民地における近代化の功績ばかりを特筆し、支配下にある多くの人びとの苦難については、何らふれるところがありません。アジア諸地域の人びととの相互理解を妨げる、ひたすら内向きの教科書叙述と言わざるをえません。

・近代の戦争についても、侵略や加害の事実を充分理解できるようには記さず、日本国家の正当化に終始する自国中心の記述にとどまっています。育鵬社版・自由社版ともに、日露戦争が諸民族に独立の希望を与えたことを述べ、さらに「大東亜戦争」の時期の「大東亜共栄圏」を特記し、アジアの解放独立を謳ったことに紙数を費やしています。その一方で、アジア太平洋戦争での惨禍については、日本人がわの被害・犠牲についてのみ記し、アジア諸民族の被害については全く無視しています。

・平和教育を敵視し、現代世界における戦争の違法化の動向については重視せず、日本国憲法に規定された戦後日本の体制を変えることを目的とする教科書となっています。育鵬社版は「日本国憲法の最大の特色」として「他国に例を見ない徹底した戦争放棄(平和主義)の考え」としています。自由社版も「世界で例を見ないもの」としており、憲法9条の規定をまったく異例な性格のものと位置づけることに主眼があるようです。9条改憲を射程に入れた、そして日本国憲法を遵守するどころかこれに敵対しようとする、政治的性格をもつ教科書、といえるでしょう。

 

10年前に、扶桑社版教科書が登場したときに出された、「緊急アピール」では、次のように述べられていました。「私たちは、今日の学校教育における歴史の叙述は、諸国民、諸民族の共生をめざすものであるべきで、自国中心的な世界像を描くことや、他国を誹謗することは許されないと思います。『新しい歴史教科書』が教育の場にもちこまれることによって、共生の未来を築くために必要な、生徒の歴史認識や国際認識の形成が阻害されることを憂慮するものです」。今なお、あらためてこう言わなければなりません。育鵬社版と自由社版の教科書を教育の場にもちこんではならない、と。よって、私たちは、これらの教科書が採択されることに強く反対するものです。

 

2011年7月

 

歴史学研究会

日本史研究会

歴史科学協議会

歴史教育者協議会

『新しい歴史教科書』を引き継ぐ自由社版・育鵬社版歴史教科書の採択に反対する声明

『新しい歴史教科書』を引き継ぐ自由社版・育鵬社版歴史教科書の採択に反対する声明 published on

  本年3月30日、文部科学省は、2012年度から使用される中学校教科書の検定結果を公表し、社会科歴史分野では「新しい歴史教科書をつくる会」主導で作成された『新しい歴史教科書』(自由社発行)、「新しい歴史教科書をつくる会」から分かれた「改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会」主導で作成された『新しい日本の歴史』(育鵬社発行)が、それぞれ検定を通過したことが明らかになりました。
 
私たち歴史研究者は、10年前に『新しい歴史教科書』(扶桑社版)が登場して以来、天皇中心・国家中心の歴史観に基づく自国中心的な歴史叙述が持つ問題点を指摘し、この教科書が採択され教育現場で使用されることに反対の意思を表明してきました。 
今回検定を通過した両社の教科書は、全編を通じて自国中心的な歴史認識に基づく叙述がなされているという点では、従来の扶桑社版『新しい歴史教科書』と全く変わっていません。

例えば、歴史を学ぶ意義や姿勢を述べた巻頭部分(自由社版では「歴史を学ぶとは」、育鵬社版では「歴史の旅を始めよう」)には「日本の歴史は、どの時代を切ってもすべて、私たちの共通のご祖先が生きた歴史なのです」(自由社版)、「歴史の旅を進めていくと、私たちが住んでいる日本という国は、古代に形づくられ、今日まで一貫して継続していることに気づくと思います」(育鵬社版)と記されています。日本列島にはあたかも太古より単一の民族による単一の国家が存在したかのような記述であり、ここに端的に表現されているように、両社の教科書を貫くのは、日本国家・民族の一貫性・継続性を強調した、超時代的・血族主義的な歴史観であり、日本列島の歴史・文化の成り立ちの多様性は捨象されています。

前近代史では、「一万年の縄文時代には、日本人のおだやかな性格が育まれ、日本文化の基礎がつくられたという説もある」としたり、聖徳太子の十七条憲法を解説して、「人々の和を重視する考え方は、その後の日本社会の伝統となった」とするなど、日本の社会・文化の固有性の起源をいたずらに古い時代に求めたり、また、元寇の脅威とそれへの「勇敢」な対処を大いに強調する一方、秀吉のバテレン追放令発令の理由として、「宗教的に寛容な国柄」の日本に「一神教」であるキリスト教が入ってきたことをあげ(いずれも自由社版)、他国や異文化と対置して、日本民族や日本文化の優秀性が強調されています。
江戸時代の記述では、平和や繁栄の側面が強調される一方、農村の実態や身分差別、アイヌや琉球の人々への記述が少なく、平板で一面的な理解となっているとともに、「武士道と忠義の観念」「二宮尊徳と勤勉の精神」(自由社版)と題するコラムを掲載するなど、精神性・道徳性を強調する記述もみられます。
 
近現代史では、日露戦争における奉天会戦や日本海海戦の勝利を大きく取り上げ、「植民地にされていた諸民族に、独立への希望をあたえた」(自由社版)と評価し、韓国併合については鉄道・灌漑施設などの建設やハングル文字を導入した教育が行われた点を、台湾統治においては水道・治水事業に従事した八田與一の事績をそれぞれ強調して、日本の植民地支配を正当化しますが、植民地現地における過酷な支配や弾圧の実態についてはほとんど触れられていません。
また、外圧による対外危機を過度に強調し、第二次世界大戦(両社とも「大東亜戦争」との表記を併用しています)に関しては、日本の被害者的立場を強調し、「戦争の勝利を願う多くの国民はよく働き、よく戦った」(自由社版)としながら、戦争の過酷な実態や戦時下の厳しい生活などについては記載が乏しいなど、極めて偏った記載がなされています。さらに両社ともコラムで昭和天皇を取り上げ、「昭和天皇-国民とともに歩まれた生涯」(自由社版)、「国民とともに歩んだ昭和天皇」(育鵬社版)と、高く評価しています。
 
ここにあげた事例は、両社の教科書記述のほんの一部にしか過ぎません。天皇や国家そのものに多くの関心が注がれる一方、民衆や社会的弱者への視線は希薄です。日本の過去の植民地支配や戦争行為を意識的に正当化する考え方も教科書全体に通底しています。
これからの時代を担っていく中学生がこれらの教科書によって歴史を学ぶことになれば、日本の歴史や文化について一面的な見方しかできず、異文化を理解し諸外国・諸地域のひとびとと交流し健全な国際関係を育くむ上でも、大きな障害になりかねません。

現在、「新しい歴史教科書をつくる会」や「改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会」「日本教育再生機構」などの団体が、政財界を巻き込み、各自治体の首長・議会、教育委員会などに対して、両社版歴史教科書の採択を請願する動きを強めています。 また橋下徹大阪府知事が率いる「大阪維新の会」の大阪市議団は、改正教育基本法と新学習指導要領に沿って中学校教科書を採択するよう、6月末に大阪市教育委員会に対して申し入れを行いました。市議団の行為は教科書名こそ特定しないものの、市教育委員会に対する明らかな干渉・圧力行為であり、教科書採択にあたっては本来中立であるべき市議会議員団としてはあるまじき行為です。
このように、ルール無視がまかり通り、本来、公正かつ客観的であるべき教科書採択のあり方が脅かされている現状は、大いに問題があると考えます。

私たち歴史研究者は、中学校歴史教科書の採択をめぐる昨今の状況を甚だ憂慮するとともに、問題の多い自由社版・育鵬社版の歴史教科書が採択され教育の場に持ち込まれることに強く反対するものです。

2011年7月17日
大阪歴史科学協議会(委員長・塚田孝)
大阪歴史学会(代表委員・小田康徳)
京都民科歴史部会(代表・小林啓治)
日本史研究会(代表委員・高橋昌明)

第三十一回 平和のための京都の戦争展 ミニ講演会

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テーマ 「戦後沖縄復帰運動とアイデンティティ」
日 時  八月六日(土)午後一時〇〇分~三時〇〇分
場 所  立命館大学国際平和ミュージアム会議室
講 演  櫻澤 誠氏(日本学術振興会特別研究員、日本近現代史)
       山﨑孝史氏 (大阪市立大学、政治地理学)
参加自由 
連絡先 平和のための京都の戦争展実行委員会